花の個性を際立たせる
学生時代は、アート、ファッション、インテリアなど、前衛的なものに憧れる時期。建築学科に通っていた私も、例外ではありませんでした。現代アートの手法をいけばなに転用できないかと、ギャラリーを会場にして様々な実験的な試みをしました。
例えば、波打った一枚のアクリル板を天井から吊るし、その前後で作品のイメージががらりと変わるアーティスティックな作品。ギャラリーの入口付近から見ると、一本の太く茶色い藤づるがアクリル板の隙間からのぞいているだけ。鑑賞者がギャラリーの奥、作品の裏側に回りこむと、そこには、伸びやかな藤づるの曲線と青々としたカエデの葉。生き生きとした植物が、私たちの目を楽しませてくれます。テーマは「光と影」。
また、黒く塗った大小の矩形の木枠を天井から吊るした幾何学的な作品。様々な大きさの矩形が、高さや奥行きを変えて、一見バラバラに吊るされているようですが、実は、ある1点から見れば、全体が大きな矩形を形成するように計算されています。珊瑚をあしらい、谷渡りやレザーファンにカラフルな蘭の仲間を添え、深海を連想させて。
こういった挑戦的な作品は、現代アートのように、鑑賞者の目を引き、楽しませる魅力があります。ご覧になった方々の評判も上々。しかし、私の中には、少し違和感がありました。展覧会の期間中、毎日同じ作品を見ているとなんだか疲れてくるのです。作者の意図が強烈なのでインパクトはあるのですが、逆に言えば押し付けがましく感じられる。私が本当に見せたいのは、はたして何だったのだろう。そんな疑問が沸き起こってきました。
今の私は、花を使って自分自身を表現しようとしている。でも、華道家の仕事は、はたしてこんなふうに自己表現することなのだろうか。いや、個性を前に出すのではなく、むしろ自分は一歩引いて、花が本来持っている美しさを引き立たせる役目に徹するべきではなかろうか。そう、思い至ったのです。
「いけばなとは、花の個性を際立たせること」。
私のいけばな哲学は、こうして生まれました。



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